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彼がそれを書き綴るとき、
決まって珈琲を入れたと聞いた。
角砂糖に洋酒を染み込ませ、
蝋燭の炎であぶる。
洋酒に移り蒼く燃える。
彼は言う。
珈琲にしずめたその炎は、
やがて私の海馬に届き
感性を奮い立たせる。
それは明日を信じる力を裏づける言葉を創り出す。
彼はそう信じ、
繊細な文章を世に生み出した。
彼とは、
谷崎潤一郎が推挙で文壇に登場した、
佐藤春夫だった。
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水辺月夜の歌
せつなき恋をするゆえに月影寒く身にぞ沈む。
もののあはれを知るゆえに水のひかりぞなげかるる。
身をうたかたとおもふとも うたかたならじ我が思ひ。
げにいやしかるわれながらうれいは清し、君ゆえに。
今、 彼の詩集が手の中にあります。 そして珈琲を入れました。
蒼い炎を見ながら そっと静かに沈めてみました。
せつなくそれは 擦過傷に似た感情が蘇った。 |
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