2004年9月号
秋の初めの 浅き夢みし 酔いもせず
彼がそれを書き綴るとき、
決まって珈琲を入れたと聞いた。
角砂糖に洋酒を染み込ませ、
蝋燭の炎であぶる。
洋酒に移り蒼く燃える。
彼は言う。
珈琲にしずめたその炎は、
やがて私の海馬に届き
感性を奮い立たせる。
それは明日を信じる力を裏づける言葉を創り出す。
彼はそう信じ、
繊細な文章を世に生み出した。
彼とは、
谷崎潤一郎が推挙で文壇に登場した、
佐藤春夫だった。

写真家 村上宏治
水辺月夜の歌

せつなき恋をするゆえに月影寒く身にぞ沈む。
もののあはれを知るゆえに水のひかりぞなげかるる。
身をうたかたとおもふとも うたかたならじ我が思ひ。
げにいやしかるわれながらうれいは清し、君ゆえに。

今、 彼の詩集が手の中にあります。 そして珈琲を入れました。
蒼い炎を見ながら そっと静かに沈めてみました。
せつなくそれは 擦過傷に似た感情が蘇った。
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