五、別尊曼荼羅といわれるもの

 
 密教全体の本尊的役割を果たす両界曼荼羅とは別に、両界曼荼羅の中の原則として大日如来以外の一尊を抽出し、それを中心に関係諸尊を配して表される曼荼羅がある。これを総称して別尊(べっそん)曼荼羅といい、数多くの種類がある《注11》。その中から、この展覧会に関わるものを中心に紹介しよう。


〔一字金輪曼荼羅〕
 金剛界大日如来と同一視される一字金輪仏頂(いちじきんりんぶっちょう)《注12》を七頭の獅子(しし)の上に坐した姿で中心に表し、周囲に七宝(しちほう)(輪宝(りんほう)・如意宝珠(にょいほうじゅ)・女宝(めほう)・馬宝(めほう)・象宝・主蔵神・主兵神)を配するのが最も一般的な図様だが、他に仏眼仏母(ぶつがんぶつも)《注13》を付するものもある。一字金輪を本尊とする修法は、どんな罪からも逃れ必ず成仏する効力があり、諸修法のなかでも最強最秘のものとされる。
 絹本著色一字金輪曼荼羅(図5-1 西國寺蔵)は、仏眼仏母は登場せず、一字金輪仏頂をめぐって五色雲に乗る七宝を配するもので、鎌倉時代中期作になる。
絹本著色一字金輪曼荼羅
図5-1 絹本著色一字金輪曼荼羅
西國寺蔵
〔法華曼荼羅〕
 中央の宝塔(ほうとう)内に釈迦・多宝(たほう)の両如来を併坐させ、周囲に八大菩薩を配した八葉蓮華と四隅に釈迦の四大弟子を置いて第一院とし、そのまわりにさらに二院をめぐらし、四摂(ししょう)・外の供養菩薩、四天王、八天などを配する。
 絹本著色法華(ほっけ)曼荼羅(図5-2  西國寺蔵)はその例であるが、諸尊をすべて梵字(ぼんじ)(種字(しゅじ))で表している。

絹本著色法華曼荼羅    絹本著色仁王経曼荼羅
図5-2 絹本著色法華曼荼羅
西國寺蔵
(撮影 村上宏治)
  図5-3 絹本著色仁王経曼荼羅
浄土寺蔵

〔仁王経曼荼羅〕
 仁王経(にんのうぎょう)法は、国家人民の安穏(あんのん)を目的とする。この修法の本尊として用いられる仁王経曼荼羅は、大日如来の化身(けしん)とされる不動明王を中心に四大明王や四摂・四供養菩薩、四天王、八天等を周囲に配する同心構造の方形三重形式になる。不動明王は、右手に宝剣、左に十二輻(さお)の輪宝(りんぼう)《注14》を執る。仁王経曼荼羅には息災(そくさい)法に用いられるものと増益(ぞうやく)法に用いられるものがある《注15》。前者は上位を北方とし、醍醐寺三宝院の定海(じょうかい 1074〜1149)が発案し珍海(ちんかい 1091〜1152)に描かせたもので、後者は上位を東方とし、小野曼荼羅寺の仁海(にんかい 951〜1046)が発案し如照(じょしょう)に描かせたといわれる。不動明王上方の三昧耶形(さんまやぎょう)で表された諸尊が方角を示す。
 絹本著色仁王経曼荼羅(図5-3  浄土寺蔵)は、前者の形式に相当するものである。

〔星曼荼羅〕
 以上の曼荼羅は大陸から請来された曼荼羅や図像をもとに作画されたものとみられるが、星(ほし)曼荼羅は我が国で考案されたものである。
 息災、殊に天災や疫病などの災害の消滅または延命を祈る北斗(ほくと)法の本尊で、北斗曼荼羅ともいわれる。2月の節分の星供に使用されることが多い。一字金輪仏頂(釈迦金輪)を中心に、北斗七星、九曜、十二宮、二十八宿の諸尊をめぐらし、構図が円形のものと方形のものがある。主として前者は天台系、後者は真言系で用いる。円形は10世紀末に台密(たいみつ)(天台宗)の座主慶円(けいえん 944?〜1019)、方形は12世紀前半に東密(とうみつ)(真言宗)の仁和(にんな)寺成就院寛助(かんじょ 1052〜1125)が発案したとされる。
 絹本著色北斗曼荼羅(図5-4 西國寺蔵)は、方形に構成されたものである。
絹本著色北斗曼荼羅
図5-4 絹本著色北斗曼荼羅
西國寺蔵
(撮影 村上宏治)



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