3. 両界曼荼羅(りょうかいまんだら)

(3)現図金剛界曼荼羅 b.成身会の構造(金剛界五仏と五智)

 金剛界曼荼羅の基本となる成身会は、金剛界五仏、十六大菩薩、四波羅蜜(しはらみつ)菩薩、内外の四供養菩薩、四摂(ししょう)菩薩の以上37尊より構成され、これを四大神(しだいじん)と賢劫(げんごう)千仏と二十天が囲む。金剛界五仏とは中央の大日如来、東方の阿しゅく(あしゅく)如来、南方の宝生(ほうしょう)如来、西方の阿弥陀(あみだ)如来、北方の不空成就(ふくうじょうじゅ)如来の五仏である。経軌に説かれる五仏の図像的特徴は、

五仏
大日
しゅく
宝生
阿弥陀
不空成就
 方位
 中央
 東
 南
 西
 北
 部族
 仏部
 金剛部
 宝部
 蓮華部
 羯磨部
 印
 智拳印
 触地印
 与願印
 定印
 施無畏印
 体色
 白
 青
 黄
 赤
 黒
 乗物
 獅子
 象
 馬
 孔雀
 金
 三形
 宝塔
 五鈷
 宝珠
 蓮華
 羯磨杵
 五智
 法界体性智
 大円鏡智
 平等性智
 妙観察智
 成所作智

 となっているが、現図金剛界曼荼羅では、その体色と乗物について経軌とは異なる表現をとっている。
 四仏は大日如来(自性法身)の化身(受用法身)として、その功徳、働きを四分して顕れた仏である。五仏には様々な理念が象徴されているが、特に金剛界曼荼羅を智の曼荼羅と呼ぶ理由となった五智がそれぞれ五仏に象徴される。

金剛界曼荼羅(全体)

金剛界曼荼羅(全体 説明)
金剛界曼荼羅〈成身会〉 浄土寺本 ※内の四供養 △四波羅蜜  外の四供養 ○四摂

 インド仏教における心理学とも言える唯識(ゆいしき)説では、私達の精神作用を前5識(眼識、耳識鼻識、舌識、身識)、第6識(意識)、第7識(末那(まな)識)、第8識(阿羅耶(あらや)識)に分け、次第に表層から深層へと深下してゆく心の重層的構造を説いた。密教ではさらに第9識(阿摩羅(あまら)識)を加える。
 これらの9識は、金剛頂経の説く瞑想法(五相成身観(ごそうじょうじんかん))によって各々五智に転じる。
(転識得智(てんじきとくち))
 前5識は、五感(眼、耳、鼻、舌、身)による感覚作用であるが、これが成所作智(じょうそさち)(不空成就如来の智恵)に、第6識はその感覚的情報に基づいて行動や判断する意識であるがこれが妙観察智(みょうかんざっち)(阿弥陀如来の智恵)に、第7識は第6識の意識下にある無意識で、自我を形成するが、これが平等性智(びょうどうしょうち)(宝生如来の智恵)に転じる。第8識は全く意識されない潜在意識で、生死輪廻する業(活動)の主体であるが、これが大円鏡智(だいえんきょうち)(阿如来の智恵)に、さらにその奧に本来的に清浄無垢な自性清浄心と呼ばれる第9識が潜み、これが法界体性智(ほうかいたいしょうち)(大日如来の智恵)に転じる。
 成所作智は、眼耳鼻舌身の五感を正しく統御し、それらによって得られる情報をもとに、現実生活を悟りに向かうべく成就させてゆく智恵である。(不空成就如来)
 妙観察智は、万物がもつ各々の個性、特徴を見極め、その個性を活かす知恵である。(阿弥陀如来)
 平等性智は、森羅万象を平等に観る智恵で、万物が大日如来の化身であり、平等の仏性をもつ事を覚る智恵である。(宝生如来)
 大円鏡智は、鏡が一切の事象をありのままに分け隔てなく映し出すように、一切をあるがままに受け入れ、分別をしない智恵である。(阿如来)
 法界体性智は、永遠普遍、自性清浄なる大日如来の絶対智であり、他の四智を統合する智恵である。(大日如来)
 これら五智が五仏によって象徴され、金剛界曼荼羅の核を形成している。
 五仏以外の諸尊は、各四仏の働きを展開する中で十六大菩薩が、大日如来と各四仏との相互供養という関係の中で、四波羅蜜菩薩、内外の四供養菩薩と四摂菩薩が出生する。
 まず各四仏は、自らを出生してもらったという感謝を込めて、大日如来の四方に四波羅蜜菩薩(金剛波羅蜜、金剛宝波羅蜜、金剛法波羅蜜、金剛羯磨波羅蜜)を供養する。これに対して大日如来は各四仏に対して内の四供養女(金剛嬉菩薩、金剛鬘菩薩、金剛歌菩薩、金剛舞菩薩)を供養する。次に各四仏が外の四供養女(金剛香菩薩、金剛華菩薩金剛燈菩薩、金剛塗菩薩)を大日如来へ再び供養する。またさらに大日如来は、各四仏に四摂菩薩(金剛鉤菩薩、金剛索菩薩、金剛鎖菩薩、金剛鈴菩薩)を供養する。
 このように金剛界曼荼羅は智の曼荼羅と言われながら、相互供養という過程で慈悲の活動を展開している。
 金剛界曼荼羅の尊名には全て金剛という二字が頭についている。これは灌頂名と言い金剛界の灌頂を授かった証しである。聞き慣れない尊名であるが、金剛法菩薩は観自在菩薩、金剛利菩薩は文殊菩薩と言ったように、よく知られた菩薩も多い。
 五仏を中心とする五解脱輪をさらに包み込む大円輪を抱きかかえるように、地神、水神火神、風神の四大神が描かれている。四大(地水火風)を司る四大神が抱きかかえているのは正に空大であり、その空大の大月輪の中に、識大即ち智の世界が説かれている事になる。
 賢劫千仏は過去、現在、未来の各千仏の代表として賢劫(現在)千仏を描いている。金剛界37尊は、こうした無数の仏たちを代表する諸尊である。
 二十天は、三界に住む上界天から地下天に至る諸天であり、仏界を魔障から守護し曼荼羅という聖空間を包み込んでいる。



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