3. 両界曼荼羅(りょうかいまんだら)

(3)現図金剛界曼荼羅 c.九会の構造と意味

 成身会の下方(東)に三昧耶会、その左方(南)に微細会、さらに上方(西)に供養会がある。これら前述の成身会を初めとする四会の構造は同一であるが、尊像の表現法と尊数に相異がある。
 三昧耶会は、仏を象徴とする三昧耶形(シンボル)で表現された、いわゆる三昧耶曼荼羅である。微細会は、全尊が金剛杵を光背として描かれているが、本来は仏の種子(梵字)で表現される法曼荼羅として説かれている。供養会は全尊が、各自の持物(じもつ)を蓮台の上に乗せた蓮を手にする姿に描かれている。当会は仏の事業、活動を表わす羯磨曼荼羅として説かれ、本来は全尊が女性形として説かれている。
 ここにこれら四会の曼荼羅が、大曼荼羅─成身会、三昧耶曼荼羅─三昧耶会、法曼荼羅─微細会、羯磨曼荼羅─供養会という四種曼荼羅を表現するものである事が理解される。
 この四種曼荼羅について弘法大師は、
「六大は無礙にして常に瑜伽なり、四種曼荼各々離れず、三密加持すれば速疾に顕わる…」(即身成仏義)
 と説き、四種類の曼荼羅は六大宇宙の様々な実相を表すものであり、四種は単独には顕現する事はなく、常に渾然一体であるとする。この点は六大の有り方と共通している。
 供養会の上方(西)に四印会があり、これは成身会を初めとする先の四種曼荼羅のダイジェスト版と言える。

金剛界曼荼羅〈四印会〉

金剛界曼荼羅〈理趣会〉
金剛界曼荼羅〈四印会〉 浄土寺本 金剛界曼荼羅〈理趣会〉 浄土寺本

 四印会の右方(北)にある─印会は、智拳印を結ぶ大日如来─尊を描く。金剛界曼荼羅を構成する37尊を初めとする諸尊も、究極はこの一尊に収束する。
 一印会の右方(北)は理趣会と呼ばれる。本来─印会と理趣会は、共に金剛薩(大日如来より密教を最初に受法する菩薩)を中尊とする曼荼羅として説かれ、因の一印会として理趣会、果の─印会として大日如来一尊を描いている。理趣会では、人間の欲求行動を四菩薩(金剛欲(よく)、金剛触(そく)、金剛愛(あい)、金剛慢(まん))で表わし、自己中心的な自我(小我)から小さな自己を越え、宇宙一切と同体の大我に目覚めた時の心(煩悩即菩提)の内証を示している。
 理趣会の下方(東)には降三世会と降三世三昧耶会が続き、ここに九会曼荼羅が完結する。
 降三世会は、十六大菩薩の首尊である金剛薩が降三世明王になり、また四仏と十六大菩薩が胸前で左右二手を交叉する姿となっている以外は、成身会と同じである。降三世三昧耶会は、三昧耶会と同様の三昧耶形によって表現されているが、五鈷杵などの刃先が鋭角となり、降三世の忿怒の意志を示している。

金剛界曼荼羅〈降三世会〉
金剛界曼荼羅〈降三世会〉 浄土寺本

 降三世とは貪瞋痴(とんじんち)(三毒)という根本煩悩を意味し、降三世明王は、この三毒に悩む剛直難化(ごうちょくなんげ)の衆生すら積極的に救済してゆこうとする威力をもつ仏である。
 つまりここに降三世会、降三世三昧耶会が説かれる事は、どのような衆生であっても大日如来の智恵の輝きを受けて、悟りへの道へと導かれてゆく事を説き示している。
 これを九会全体として見ると、成身会より右回りに降三世三昧耶会に向う過程は、大日如来がより衆生に近づき、強剛難化の衆生をも摂化してゆこうとする大智の働きが示されている。(利他向下門(りたこうげもん))
 これに対して降三世三昧耶会から左回りに成身会に向う過程は、一切衆生が大日如来の智恵の働きによって悟りへと向かってゆく様子を示している。(自利向上門(じりこうじょうもん))
 これら九会の位置関係は、ちょうど螺旋階段を右回りに降りたり(向下門)左回りに昇ったり(向上門)する運動構造をもっている。
 これは胎蔵界曼荼羅が同心円的に拡散と収束をする運動構造をもつのと対照的である。

向上門

金剛界曼荼羅〈降三世会〉
向上門             向下門
金剛界九会曼荼羅の流れ



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