平田玉蘊>エピソード
画家玉蘊の成長
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平田玉蘊 山陽もこの古鏡に賛詩をつくった年に、玉蘊の絵の成長に驚き、文を残している。

玉蘊画を善くす。しかるに其の画は京習を免れず。今、この便面を観るに、明清人の風気を髣髴す。あに元吉の喜ぶところは、ここにありて、かしこにあらず。故に渠もまた向かうところを知れるか。昨日、元吉の斎頭において新獲の馬江香の花卉の巻を観るを得たるに、一にこれを以て粉本とす。渠更にことごとくその習うところを変う。余の女弟子、細香、また墨竹を善くす。近ごろ玉臼を脱し、遠く息斎、仲昭に学ぶ。また可人なり。
己卯仲春 二十八日、余西海より帰り、尾道を過ぐ。元吉送りて今津に至る。このを出し題を索む。走筆走筆。山陽外史」

平田玉蘊 画像
玉蘊は絵を上手に描く。が、その絵は京習を脱しえない。ところが今この扇を見ると、中国風の雰囲気が感じられる。元吉(竹下)が良しとするのも、こういう画風であって京習ではない。彼女も何を目指すべきかが分かったのか。きのう元吉の家で、新しく手に入れた馬江香の描いた花卉の巻物を見たが、ひょっとするとそれが手本になったのかもしれない。
馬江香は清国の女性画家馬、江香は字である。江香は絵が優れているだけでなく、若くして未亡人となり画業で貧しい家の生計をたてた節女として名高い。(上掲書)

   女玉蘊の為に其のきょする所の古鏡に題す   頼山陽
背文緑繍雜珠斑 背文緑繍珠斑(りょくしゅうしゅはん)を雑(まじ)う
猶覺銅光照膽寒 なお覚ゆ銅光 膽(たん)を照らして寒きを
一段傷心誰得識 一段の傷心 誰か識るを得ん
凝塵影裡舞孤鸞 凝塵影裡 孤鸞舞う
(「頼山陽全集」詩集)  

【鏡の裏の模様には緑と朱の錆が混じってはいるが、なお銅鏡の光が心を照らすと寒々とした思いが浮かび上がる。さらに傷ついたあなたの心を誰が知っているだろう。塵の積もった鏡に弧鸞が舞っている】(上掲書)

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